2017年 東京大学 数学 文系 第2問 を解こう

長らく続いてきた2017年東大数学シリーズも今回が最終回です。
トリを飾っていただく問題がコチラ


一辺の長さが1の正六角形\mathrm{ABCDEF}が与えられている。
\mathrm Pが辺\mathrm{AB}上を,点\mathrm Qが辺\mathrm{CD}上をそれぞれ動くとき,線分\mathrm{PQ}2:1に内分する点\mathrm Rが通りうる範囲の面積を求めよ。

(2017 東京大学 文科 第2問)

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思考過程

問題文がシンプルです。

小問がありません。


動点 R が動く軌跡の面積を求めよという要求です。

R は内分点として規定されているのでベクトルの活用が考えられます。

また比が与えられているのだから相似を利用した図形的解法も考えられます。


R を規定しているのは「正六角形の辺上を動く」P,\  Qです。

この「」部分を表現するのにもベクトルが適当そうです。


正六角形の中心を O として O を起点とするベクトルを考えると P,\  Q


\overrightarrow{OP}=(1-t)\ \overrightarrow{OA}+t\ \overrightarrow{OB}

\overrightarrow{OQ}=(1-u)\ \overrightarrow{OC}+u\ \overrightarrow{OD}

(t,\ uは実数で 0≦t≦1,\ 0≦u≦1)


となります.


R は線分 PQ2:1 に内分する点ですから


\displaystyle\overrightarrow{OR}=\frac{1}{3}\{\ (1-t)\ {\overrightarrow{OA}+t\ \overrightarrow{OB}}\ \}+\frac{2}{3}\{{\ (1-u)\ \overrightarrow{OC}+u\ \overrightarrow{OD}}\ \}・・・①


平面上の任意のベクトルは1次独立な2つのベクトルで表せますから

\overrightarrow{OR} を表すのに \overrightarrow{OA},\  \overrightarrow{OB},\   {\overrightarrow{OC},\  \overrightarrow{OD}}

と4つのベクトルを使っているのは余分です。2つに減らしたいと考えると

図1
f:id:tarumaru:20170726001147p:plain
より

\overrightarrow{OD}=-\ \overrightarrow{OA}

\overrightarrow{OC}=\overrightarrow{OD}+\overrightarrow{OB}=-\ \overrightarrow{OA}+\overrightarrow{OB}


これらを①の式に入れて整理すると


\displaystyle\overrightarrow{OR}=\frac{1}{3}(-1-t)\ \overrightarrow{OA}+\frac{1}{3}(t-2u+2)\ \overrightarrow{OB}


この式を見ると2つの変数 t,\  u に依存しない部分があります。

この部分を分けてみると


\displaystyle \overrightarrow{OR}=-\frac{t}{3}\overrightarrow{OA}+\frac{1}{3}(t-2u)\ \overrightarrow{OB}-\frac{1}{3}\overrightarrow{OA}+\frac{2}{3}\overrightarrow{OB}・・・①’


\displaystyle -\frac{1}{3}\overrightarrow{OA}+\frac{2}{3}\overrightarrow{OB} で表される点を S とします。


さらに①’をよく見ると2つの変数 t,\  u をそれぞれ別のベクトルの係数として分けることができそうです。


このように分けられると
R の存在範囲は2つの伸び縮みするベクトルの和が表す点の存在範囲となります。


①’より


\displaystyle \overrightarrow{OR}=\frac{t}{3}(\ \overrightarrow{OB}-\overrightarrow{OA}\ )-\frac{2u}{3}\overrightarrow{OB}-\frac{1}{3}\overrightarrow{OA}+\frac{2}{3}\overrightarrow{OB}
  =t\ \frac{\overrightarrow{AB}}{3}+u\ (-\frac{2}{3}\overrightarrow{OB}\ )+\overrightarrow{OS}
・・・①’’


①’’より
\overrightarrow{OR}
S を起点として1次独立な2つのベクトル \displaystyle \frac{\overrightarrow{AB}}{3},\  -\frac{2}{3}\overrightarrow{OB} の和で表されます。


そして t,\  u0≦t≦1,\ 0≦u≦1 で独立に動くという条件より

\overrightarrow{OR} の描く領域は
\displaystyle \frac{\overrightarrow{AB}}{3}\displaystyle -\frac{2}{3}\overrightarrow{OB} が作る平行四辺形となります。


図2
f:id:tarumaru:20170726001538p:plain
後はこの平行四辺形の面積を求めるだけです。

正六角形の一辺の長さは1ですから, |\ \overrightarrow{AB}\ |=1


△OAB が正三角形となるので


|\ \overrightarrow{OB}\ |=1

\displaystyle |\frac{\overrightarrow{AB}}{3}|=\frac{1}{3}|\overrightarrow{AB}|=\frac{1}{3}

\displaystyle |-\frac{2}{3}\overrightarrow{OB}\ |=\frac{2}{3}|\ \overrightarrow{OB}\ |=\frac{2}{3}


\overrightarrow{AB}-\overrightarrow{OB} のなす角は120°だから


求める面積は


\displaystyle \frac{1}{2}\cdot\frac{1}{3}\cdot\frac{2}{3}\cdot\sin 120°\cdot2=\frac{\sqrt{3}}{9}


これで解けました。

解答の骨格

1. 正六角形の中心 O を始点とした位置ベクトル \overrightarrow{OP},\overrightarrow{OQ}
   パラメータ t\ , \ uを用いて表す


2. R\overrightarrow{OA},\overrightarrow{OB} で表し,
   パラメータが関係する部分と関係しない定ベクトル部分に分ける


3. 下線部をさらに t のみに関係するベクトルと u のみに関係するベクトル
   の2つに分ける


4. 3.より t\ , \ u を動かした結果が平行四辺形になることを示し
   その面積を求める

解答例

正六角形の中心を O とすると


\overrightarrow{OP}=(1-t)\ \overrightarrow{OA}+t\ \overrightarrow{OB}

\overrightarrow{OQ}=(1-u)\ \overrightarrow{OC}+u\ \overrightarrow{OD}

( t\ ,\ u は実数で 0≦t≦1\ ,\ 0≦u≦1 )


となる


\overrightarrow{OC}=\overrightarrow{OD}+\overrightarrow{OB}=-\ \overrightarrow{OA}+\overrightarrow{OB}

\overrightarrow{OD}=-\ \overrightarrow{OA}


R は線分 PQ2:1 に内分する点だから


\displaystyle\overrightarrow{OR}=\frac{1}{3}\{\ (1-t)\ {\overrightarrow{OA}+t\ \overrightarrow{OB}}\ \}+\frac{2}{3}\{{\ (1-u)\ \overrightarrow{OC}+u\ \overrightarrow{OD}}\ \}\\
\displaystyle =\frac{t}{3}(\overrightarrow{OB}-\overrightarrow{OA})-\frac{2u}{3}\overrightarrow{OB}+-\frac{1}{3}\overrightarrow{OA}+\frac{2}{3}\overrightarrow{OB}


\displaystyle \overrightarrow{OS}=-\frac{1}{3}\overrightarrow{OA}+\frac{2}{3}\overrightarrow{OB} で表される点を S とすると


\displaystyle \overrightarrow{OR}=t\ \frac{\overrightarrow{AB}}{3}+u\ (-\frac{2}{3}\overrightarrow{OB})+\overrightarrow{OS}


t\ ,\ u はそれぞれ 0≦t≦1\ ,\ 0≦u≦1 で独立に動くから

R の動く範囲は S を始点として2つの1次独立なベクトル \displaystyle \frac{\overrightarrow{AB}}{3}, \ -\frac{2}{3}\overrightarrow{OB} で作られる平行四辺形である


\displaystyle |\frac{\overrightarrow{AB}}{3}|=\frac{1}{3}|\overrightarrow{AB}|=\frac{1}{3}

\displaystyle|-\frac{2}{3}\overrightarrow{OB}|=\frac{2}{3}|\overrightarrow{OB}|=\frac{2}{3}


\overrightarrow{AB}-\ \overrightarrow{OB} のなす角は 120^\circ


よって求める平行四辺形の面積は


\displaystyle \frac{1}{2}\cdot\frac{1}{3}\cdot\frac{2}{3}\cdot\sin 120°\cdot2=\frac{\sqrt{3}}{9}・・・(答)

まとめポイント

・ ベクトルを扱うときはどこを始点にするかの判断が必要です。

私は正六角形の各頂点の対等性を崩したくなかったので正六角形の中心をベクトルの始点としましたが頂点をそのままベクトルの始点としてもいいです。


本問の場合、後者のほうが若干計算がラクになります。

別解1として示しておきます。


・ 線分上の動点を表現するのには変数(パラメータ)の設定が必要です。

この変数の範囲は始点から終点までという意味で 0≦t≦1 です。


・ \overrightarrow{OR} は変数に依存する部分と依存しない部分に分けられます。

このパラメータに依存しない部分は定ベクトルとなります。


ベクトルの通過領域を考える問題ではパラメータを動かす部分のみに注目できるように定ベクトルを分けておきます。

定石なので覚えましょう。


・ 2つの1次独立なベクトルの和が成すベクトルの通過領域の問題は定番問題です。

ベクトルの係数となる変数の関係によって通過領域の概形が変化します。

0≦t≦1\ ,\ 0≦u≦1,\  t+u≦1 のような関係なら

三角形となります。


本問では P,\ Q が独立に動くため,変数 t,\  u 間に関係式が存在しません。

そのため R の通過領域が平行四辺形となります。


・ ベクトルのなす角を測るときは始点をそろえるようにします。

ベクトルをつなげた部分の角ではないことに注意しましょう。


・ 平行四辺形は対角線に対して対称なのでその面積は2つのベクトルが作る三角形の面積の2倍です。


・ 本問は他に、ベクトルの成分面に着目して R の動く範囲をパラメータの存在条件に帰着させる方法と R の動く範囲を図形的に直接把握する方法が考えられます。


それぞれ別解2,別解3として示しておきます。


別解1 正六角形の頂点をベクトルの始点にとる

\overrightarrow{AP}=t\ \overrightarrow{AB}\ ,\  \overrightarrow{CQ}=u\ \overrightarrow{CD}

( t\ ,\ u は実数で 0≦t≦1\ ,\ 0≦u≦1 )


とする.


R は線分 PQ2:1 に内分する点だから


\displaystyle \overrightarrow{AR}=\frac{1}{3}\overrightarrow{AR}+\frac{2}{3}\overrightarrow{AQ}\\\displaystyle=\frac{1}{3}\overrightarrow{AR}+\frac{2}{3}(\ \overrightarrow{AC}+\overrightarrow{CQ}\ )\\\displaystyle=t\ (\ \frac{1}{3}\overrightarrow{AB}\ )+u\ (\ \frac{2}{3}\overrightarrow{CD}\ )+\frac{2}{3}\overrightarrow{AC}


t\ ,\ u はそれぞれ 0≦t≦1\ ,\ 0≦u≦1 で独立に動くから

R の存在範囲は \displaystyle \frac{1}{3}\overrightarrow{AB}\displaystyle \frac{2}{3}\overrightarrow{CD} を2辺とする平行四辺形の周および内部である


\overrightarrow{AB}\overrightarrow{CD} のなす角は正六角形の内角 120^\circだから求める面積は


\displaystyle|\frac{1}{3}\overrightarrow{AR}|\cdot|\frac{2}{3}\overrightarrow{AQ}|\cdot\sin120^\circ\cdot2=\frac{1}{3}\cdot\frac{2}{3}\cdot\frac{\sqrt{3}}{2}\cdot2=\frac{\sqrt{3}}{9}・・・(答)


別解2 パラメータの存在条件に帰着

正六角形の中心を \mathrm O とし,頂点 A,B,C,D をそれぞれ


\displaystyle A\ (1,0),\ B\ (\frac{1}{2},\ \frac{\sqrt{3}}{2}),\ C\ (-\frac{1}{2},\ \frac{\sqrt{3}}{2}),D\ (-1,0)


とする


\overrightarrow{OP}=(1-t)\ \overrightarrow{OA}+t\ \overrightarrow{OB}

\overrightarrow{OQ}=(1-u)\ \overrightarrow{OC}+u\ \overrightarrow{OD}

( t\ ,\ u は実数で 0≦t≦1\ ,\ 0≦u≦1 )


となるから


\displaystyle \overrightarrow{OP}=(1-t)\binom{1}{0}+t\binom{\ \frac{1}{2}}{\frac{\sqrt{3}}{2}}\\=\displaystyle  \binom{1-\frac{1}{2}t}{\frac{\sqrt{3}}{2}t}

\displaystyle \overrightarrow{OQ}=(1-u)\binom{-1}{0}+u\binom{\ -\frac{1}{2}}{\frac{\sqrt{3}}{2}}\\=\displaystyle  \binom{\frac{1}{2}u-1}{\frac{\sqrt{3}}{2}u}


R は線分 PQ2:1 に内分する点だから


\overrightarrow{OR}\displaystyle =\frac{1}{3}\overrightarrow{OP}+\frac{2}{3}\overrightarrow{OQ}\\
\displaystyle =\frac{1}{3} \binom{1-\frac{1}{2}t}{\frac{\sqrt{3}}{2}t}+\frac{2}{3} \binom{\frac{1}{2}u-1}{\frac{\sqrt{3}}{2}u}\\=\displaystyle \binom{-\frac{1}{6}t+\frac{1}{3}u-\frac{1}{3}}{\frac{\sqrt{3}}{6}t+\frac{\sqrt{3}}{3}u}


\overrightarrow{OR}=(\ x\ ,\ y\ ) とすると


\displaystyle x=-\frac{1}{6}t+\frac{1}{3}u-\frac{1}{3}・・・①


\displaystyle y=\frac{\sqrt{3}}{6}t+\frac{\sqrt{3}}{3}u・・・②


0≦t≦1・・・③


0≦u≦1・・・④


「①, ②, ③, ④ を満たす t\ ,\  u が存在するような (\ x\ ,\ y\ ) の条件を求めればよい」


③より


\displaystyle u=\sqrt{3}y-\frac{1}{2}t・・・②’


②’を①に代入して


t=\sqrt{3}y-3x-1・・・①’


①’を②’に代入して


\displaystyle u=\frac{3}{2}x+\frac{\sqrt{3}}{2}y+\frac{1}{2}・・・②’’


①’を③に代入して整理して


\displaystyle \sqrt{3}x+\frac{1}{\sqrt{3}}≦y≦\sqrt{3}x+\frac{2}{\sqrt{3}}・・・⑤


②’’を④に代入して整理して


\displaystyle -\sqrt{3}x-\frac{1}{\sqrt{3}}≦y≦-\sqrt{3}x+\frac{1}{\sqrt{3}}・・・⑥


よって⑤かつ⑥が求める R の通過範囲である


⑤かつ⑥を図示すると下図のようになる


図3
f:id:tarumaru:20170726002834p:plain


求める面積は図の平行四辺形 STUV の面積である


\displaystyle T=(-\frac{1}{6}, \frac{\sqrt{3}}{2})

\displaystyle V=(-\frac{1}{3}, 0)

\displaystyle ST=2\cdot\frac{1}{6}=\frac{1}{3}

\displaystyle SV=2\cdot\frac{1}{3}=\frac{2}{3}


平行四辺形 STUV の面積は


\displaystyle ST\cdot SV\sin120^\circ=\frac{1}{3}\cdot\frac{2}{3}\cdot\frac{\sqrt{3}}{2}=\frac{\sqrt{3}}{9}


よって R の通過する面積は


\displaystyle \frac{\sqrt{3}}{9}・・・(答)


別解2  ポイント

・ ベクトルを成分表示して動点を規定するパラメータの存在条件に帰着させます。


「①, ②, ③, ④ を満たす t\ ,\  u が存在するような (\ x\ ,\ y\ ) の条件を求めればよい」


の部分が解答のキモです。


ある文字の存在条件はその文字について解くことから導かれます。


①’,②’’で t\ ,\ u について解いています。

この t\ ,\ u が ③,④ を満たすような条件として (\ x\ ,\ y\ ) の取りうる範囲が決定されます。


・ 成分表示しているため平行四辺形の面積は座標計算から求められます。

領域の境界をなす直線の交点を求めます。


直線の傾きが x 軸となす角がそれぞれ 60^\circ\ ,\ -60^\circ であることに着目すると辺の比が簡単にわかる直角三角形が現れますので平行四辺形の面積計算は容易です。


\overrightarrow{ST}=(a\ ,\ b)\ ,\ \overrightarrow{SV}=(c\ ,\ d) のようにベクトルの成分を求めて平行四辺形の面積を

|\ ad-bc\ | として求めることもできます。


別解3 図形的にRの通過範囲を把握する

まず Q を固定する


このとき P を辺 AB 上で動かしたときの P=A\ ,P=B における R をそれぞれ S\ ,\ T とすると
R の動く軌跡は線分 ST である。


図4
f:id:tarumaru:20170726003234p:plain

より

△QAB∽△QST=3:1


だから


\displaystyle ST=\frac{1}{3}


次に Q を辺 CD 上で動かす


このとき TBT:TQ=2:1 となるように動くから Q=C\ ,Q=D における T をそれぞれ T_1\ ,T_2 とすると
T の動く軌跡は線分 T_1T_2 である。


図5
f:id:tarumaru:20170726003330p:plain

より


△BCD∽△BT_1T_2=3:2


だから


\displaystyle T_1T_2=\frac{2}{3}


T が線分 T_1T_2 上を動くと線分 ST も一緒に動く


T=T_1 のときの SS_1 とすると

R の通過範囲は線分 S_1T_1 ,線分 T_1T_2 を2辺とする平行四辺形である


S_1T_1AB\ ,\ T_1T_2CD はそれぞれ平行だから
線分 S_1T_1 と線分 T_1T_2 のなす角は正六角形の内角に等しく 120^\circ


図6
f:id:tarumaru:20170726003435p:plain


よって求める面積は


\displaystyle \frac{1}{3}\cdot\frac{2}{3}\cdot\sin120^\circ=\frac{\sqrt{3}}{9}・・・(答)


別解3 ポイント

・ 線分比が一定となる点の軌跡は線分の両端の点の一方を固定しもう一方を動かしたとき、動かした点の軌道をとります。


Q を固定し P を動かすと R は線分 AB と平行な線分となります。


このとき比が一定であることから相似な図形が生じます。

相似比は線分比からわかります。


固定点は相似拡大変換の中心となっています。


・ 次に固定点を動かすのですが前の操作で生じた図形を動かすことになります。
このときの移動をイメージできない人が非常に多いです。


固定点を動かすときのコツとしては前の操作で生じた図形の全体ではなく一点に注目することです。


別解3では線分 ST ではなく T の移動に注目しています。

T は線分 BQ 上の線分比が一定となる点です。


ここで Q を動かすと B を固定点とした前の操作と同じになります。

つまり Q を動かしたときの T の軌跡は辺 CD と平行な線分 T_1T_2 となります。


P を動かしたときの R の軌跡は線分 ST として反映されています。

TT_1T_2 上を動くときその各々の T に対して P を動かせば線分 ST が現れます。


つまり T の移動と P を動かしたときにできる図形は連動することになります。


よって Q を動かすと T とともに P を動かしたときにできる図形線分 ST が動きます。


最後に

東大としては珍しい小問による誘導がない問題です。

初めて見たときは京都大学の問題かと思いました。


問題の設定がシンプルであるがために複数の解法が頭をよぎるでしょう。


本問の場合、最も速く解けるのはほとんど計算のいらない別解3です。

幾何の感覚に優れた人は答をだすだけなら3分もかからないでしょう。

答案作成時間を含めても10分かからないはずです。

最速で解けるという意味では最適な解法です。


一方で弱点もあります。


2017年東大理系第6問でも注意しましたが図形的解法というものはとかく直観に頼りがちです。
そして直観の誤りに気付くことはかなり困難です。
(というより誤りだと思っていないからこそ直観として脳裏に浮かぶのです)


本問でも図形的解法をとろうとした人の半数が Q を固定して P を動かす最初の段階でつまずいています。


P を動かしたときの R の軌跡がそもそも直線になることがわからず曲線としたり,たとえ直線になることがわかったとしてもその直線が AB と平行になることに気付けない人がいました。


P を動かしたときをクリアしても次の Q を動かすとなるともはや出来は壊滅的で9割の人が Q の動く範囲と R の軌跡(線分 ST )の動く範囲を一致させて考えて平行四辺形の1つの辺を 1 としていました。
図 7
f:id:tarumaru:20170726003802p:plain


(図6 を見てわかるように Q の動く範囲と R の軌跡(線分 ST )の動く範囲は一致しません。)


結局,図形的解法による別解3の正答率は約5パーセントでした。(調べ)


別解3は最速と高い誤答率の諸刃の剣です。



別解2は計算量は多いもののパラメータの存在条件という直観の入る余地のない論理的な解法です。 


別解2で目立ったミスとしては①②③④を導いたあと,何をしたらよいかわからずにフリーズするというものでした。


パラメータで表された点の軌跡はパラメータの存在条件として求まるということの意識がまだ徹底されていないのでしょう。


この考え方は軌跡の問題でよく使いますので十分に慣れておきましょう。


別解2の正答率は約60パーセントでした。



私的オススメ解法は解答例ないし別解1のベクトルの和に帰着させて通過領域を考える解法です。


1次独立なベクトルの組(基底といいます)の和ですから R の動く範囲が平行四辺形となることがすぐにわかります。


基底の取りうる長さもパラメータの条件が反映されて簡単にわかります。


計算量が別解2より少なくて済み,別解3のように直観に頼りすぎることがないバランスの取れた解法です。


この解法の正答率は70パーセント近かったのですが気になったのはこの解法を選択する人が少なかったことです。


私が調べた各解法の選択率は


解答例(別解1):別解2:別解3=20:40:40


となりました。


受験生の傾向の1つとしてベクトルを避けるきらいがあります。
ベクトルの和が表す領域をイメージすることに慣れていないのしょうか。


ベクトルは計算や直観に傾倒することのないバランスの取れた解法となりやすいのでぜひ食わず嫌いせずベクトルに慣れ親しんで欲しいです。


本問でとりあげた3つの解法はいずれも受験数学上重要な解法です。
複数の重要解法を学べる問題として本問は良問といえます。


この夏,ぜひ取り組んでおきたい1題です。