2017年 京都大学 数学 理系 第 4 問を解こう

引き続き今年の京都大学の問題を解いていきましょう。
今回は2017年 京都大学 数学 理系 第 4 問です。
問題はこちら


\triangle \mathrm {ABC} は鋭角三角形であり,\angle \mathrm A=\displaystyle \frac{\pi}{3} であるとする.また \triangle \mathrm {ABC} の外接円は半径 1 とする.

( 1 ) \triangle \mathrm {ABC} の内心を \mathrm P とするとき,\angle \mathrm {BPC} を求めよ.

( 2 ) \triangle \mathrm {ABC} の内接円の半径 r の取りうる値の範囲を求めよ.

( 2017 京都大学 数学 理系 第 4 問 )


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(1)思考過程

平面図形の問題です。
与えられている情報が少ないです。

・ 鋭角三角形である
・ 一つの定角が \displaystyle \frac{π}{3}
・ 外接円の半径が 1

これだけの情報で内接円の中心が三角形の頂点となす角 \angle\mathrm {BPC} が求まるのでしょうか。

とりあえず図を描いてみましょう。
図1
f:id:tarumaru:20170921005656p:plain
\angle\mathrm B=2β,\ \angle\mathrm C=2γ

とします。

内接円の中心は角の二等分線の交点ですから

β,γ が分かれば \angle\mathrm {BPC} が求まります。

当然のことですが三角形の内角の和は π です。

三角形の3つの内角のうち1つが定角であれば残りの2角の和が一定となります。

\displaystyle \frac{π}{3}+2β+2γ=π

より

β+γ=\displaystyle \frac{π}{3}

です。

\angle\mathrm {BPC}=π-(β+γ)

ですから

\angle\mathrm {BPC}=\displaystyle \frac{2π}{3}

です。
これで( 1 )が解けました。

解答の流れはこのままなので解答例は省略します。

(2)思考過程

内接円の半径 r の範囲を求めよという問題です。

r\mathrm P から三角形の各辺に下した垂線の長さです。

\mathrm P が動くと r の長さが変化します。

つまり \mathrm P の動く範囲がわかれば r の範囲がわかります

\mathrm P の動く範囲はどう捉えたらよいのでしょうか。

\mathrm P に関係する量として (1) で求めた \angle\mathrm {BPC} があります。

(1) がヒントになっているはずなので (1) の利用法を考えてみます。

(1) からわかることは \angle\mathrm {BPC}β\ ,\ γ の値によらないことです。

β\ ,\ γβ+γ=\displaystyle \frac{π}{3} を満たす下でどんな値をとろうとも
\angle\mathrm {BPC}\displaystyle \frac{2π}{3} です。

円が関係する定理で角が一定のものといえば・・・

そう、円周角の定理ですね。

円周角の定理より \mathrm P は弧 \mathrm{BC} に対してつねに円周角が \displaystyle \frac{2π}{3} となるような円周上にあります

さらに円周角が \displaystyle \frac{2π}{3} と鈍角ですから弧 \mathrm{BC} は劣弧であることがわかります。

これで \mathrm P は劣弧 \mathrm{BC} 上をすべて動くとしてよいでしょうか?

\mathrm P が劣弧 \mathrm{BC} 上を動く⇔ β+γ=\displaystyle \frac{π}{3}

です。

\mathrm P が劣弧 \mathrm{BC} 上をすべて動くなら β+γ=\displaystyle \frac{π}{3} を満たす 0 から \displaystyle \frac{π}{3} までの β\ ,γ の存在が必要になります。

β\ ,γ になにか制限はないでしょうか。

角に関わる条件として \triangle \mathrm {ABC} が鋭角三角形であるというものがありました。

いかにも β\ ,γ の範囲を制約しそうですね。

\triangle\mathrm{ABC} が鋭角三角形であるという条件から

\displaystyle 0<2β<\frac{π}{2},0<2γ<\frac{π}{2}\\⇔\displaystyle 0<β<\frac{π}{4},0<γ<\frac{π}{4}

これより \mathrm P は劣弧 \mathrm{BC} 上のうち \displaystyle 0<β<\frac{π}{4},0<γ<\frac{π}{4} の範囲を動くことになります。
図2
f:id:tarumaru:20170921011420p:plain
図2より
\displaystyle β=γ=\frac{π}{6} ( \triangle\mathrm{PBC} が二等辺三角形 ) のとき r は最大となり
\displaystyle β=\frac{π}{4} または \displaystyle γ=\frac{π}{4} のとき r は最小となります

\mathrm{BC} の長さは外接円の半径が 1 という条件から正弦定理を適用して

\displaystyle \frac{BC}{\sin\angle\mathrm A}=2\cdot1\\\displaystyle ⇔BC=2\sin \frac{π}{3}=\sqrt{3}

です。

Ⅰ. \displaystyle β=γ=\frac{π}{6} のとき

\triangle\mathrm{PBC}二等辺三角形となりますから

\displaystyle r=\frac{BC}{2}\tan \frac{π}{6}\\\displaystyle =\frac{\sqrt{3}}{2}\cdot\frac{1}{\sqrt{3}}\\\displaystyle =\frac{1}{2}

Ⅱ. \displaystyle \beta=\frac{π}{4} のとき
図3
f:id:tarumaru:20170921011514p:plain
\mathrm{AB}=1,\mathrm{CA}=2

2本の円の接線の交点とその接点との距離は等しいから

CA=AB-r+BC-r\\\displaystyle ⇔r=\frac{\sqrt{3}-1}{2}

Ⅰ. Ⅱ. より r の取りうる範囲は

\displaystyle \frac{\sqrt{3}-1}{2}<r≦\frac{1}{2}

これで ( 2 ) が解けました。

解答の骨格

1. \angle\mathrm {BPC}=\displaystyle \frac{2π}{3} , \displaystyle 0<\frac{1}{2}\angle\mathrm{B}(=β\ )<\frac{π}{4},0<\frac{1}{2}\angle\mathrm{C}(=γ\ )<\frac{π}{4} より \mathrm P が 劣弧 \mathrm {BC} に対して円周角 \displaystyle \frac{2π}{3} となる円周上の一部を動くことを示す.

2. \mathrm P から \mathrm {BC} に下した垂線の長さが r であることを示しその最小値と最大値を場合分けして求める.

解答例

( 1 ) より \mathrm P\mathrm {BC} を劣弧とする円周角が \displaystyle \frac{2π}{3} となる円周上にある

\triangle\mathrm{ABC} が鋭角三角形であるから

\displaystyle 0<2β<\frac{π}{2},0<2γ<\frac{π}{2}\\\displaystyle ⇔0<β<\frac{π}{4},0<γ<\frac{π}{4}

よって \mathrm P の動く範囲は下図の( 青の )太線部( ただし白丸は除く )
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\mathrm P から \mathrm {BC} に下した垂線の長さが r である

\triangle\mathrm{ABC} の外接円の半径は 1 だから正弦定理より

\displaystyle BC=2\sin \frac{π}{3}=\sqrt{3}

上図より r が最大となるのは \triangle\mathrm{PBC}二等辺三角形となるときだから

\displaystyle r=\frac{BC}{2}\tan \frac{π}{6}\\\displaystyle =\frac{\sqrt{3}}{2}\cdot\frac{1}{\sqrt{3}}\\\displaystyle =\frac{1}{2}

r が最小となるのは β\displaystyle =\frac{π}{4} または \displaystyle γ=\frac{π}{4} のとき
βγ の対等性から一方を考えれば十分

\displaystyle β=\frac{π}{4} のとき
\triangle\mathrm{ABC} は下図の直角三角形となるから
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AB=1,CA=2

ここで
CA=AB-r+BC-rとなるから

\displaystyle r=\frac{AB+BC-CA}{2}\\\displaystyle =\frac{\sqrt{3}-1}{2}

よって r の取りうる範囲は

\displaystyle \frac{\sqrt{3}-1}{2}<r≦\frac{1}{2}・・・(答)

まとめポイント

・ ( 1 ) の \angle\mathrm{BPC}\mathrm{P} の位置によらず一定となることから円周角の定理は思いつけましたか.

2点からの角度が一定となる点の軌跡はその2点が結ぶ線分を弦とする円周上を動きます

中学校で学ぶ円周角の定理はある円弧に対して円周上の点の角度が一定とする使い方がメインですが,本問では角度一定の情報から弦とその円弧を決定するという逆の使い方をしています.

角度一定の条件から円周角の定理を用いるのは軌跡を求めるときに頻出ですのでこのような円周角の定理の利用も覚えておいてください.

\mathrm{P} の動く範囲に注意が必要です.

\mathrm{P} は劣弧 \mathrm{BC} 上をすべて動くわけではありません.

\angle\mathrm{B}\ ,\ \angle\mathrm{C} は三角形の内角ですからその取りうる値に制限があります.

一般に軌跡の範囲を考えるときは,その動きを規定するパラメータの範囲を考えることが必要です.

本問では \displaystyle\frac{1}{2}\angle\mathrm{B}\ , \frac{1}{2}\angle\mathrm{C} がパラメータとなって \mathrm{P} の動く範囲を規定しています.

このパラメータの条件を忘れて \mathrm{P} は劣弧 \mathrm{BC} 上をすべて動くとする人が多いので気を付けてください.

\mathrm{P}\triangle\mathrm{ABC} の内接円の中心ですからその半径は \mathrm{P} から各辺に下ろした垂線の長さとなります.

\angle\mathrm{A} の値および外接円の半径が与えられていることから正弦定理より辺 \mathrm{BC} の値が求まるので \mathrm{P} から辺 \mathrm{BC} に下ろした垂線の長さを半径 r とするのが良いでしょう.


最後に

( 1 ) は図を描けば明らかでしょう。

( 2 ) は r の動く範囲が \mathrm{P} の動きと連動することを考えれば自然と \mathrm{P} の動く範囲に着目するようになります.

( 1 ) の角度一定の条件から円周角の定理ならびに三角形の内角であることから生じる制約を考慮すれば \mathrm{P} の動く範囲は図形的に把握できて問題解決となります.

円周角の定理は中学校で習うので大学受験段階になると忘れがちです.センター試験でも円周角の定理を利用した問題は出題されていますので円周角の定理を忘れていた人は復習しておきましょう.