2017年 東京大学 数学 文系 第1問 を解こう

今回は2017年東京大学数学文系第1問を解いていきます。
問題はこちら


座標平面において2つの放物線 A: y=s(x-1)^2B: y=-x^2+t^2 を考える。

ただし s, \ t は実数で,0<s,\  0<t<1 をみたすとする。

放物線 Ax 軸および y 軸で囲まれる領域の面積を P とし,放物線 Bx≧0 の部分と x 軸および y 軸で囲まれる領域の面積を Q とする。

AB がただ1点を共有するとき,\displaystyle \frac{Q}{P} の最大値を求めよ。

(2017 東京大学 文科 第1問)

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思考過程

文字定数 s,t が与えられた上での
最大値を求めよとのことなので s または t の関数の存在を予感させます。


とりあえず問題に関する量を立式してみましょう。


2つの放物線が単純な形をしているので図示してみると
図1
f:id:tarumaru:20170725070822p:plain


のようになります。


面積 P と Q は共有点の有無にかかわらず一意に決まるため
先に P と Q を求めてしまいます。


\displaystyle P=\int_{0}^{1}s(x-1)^2dx\\=\displaystyle \frac{s}{3}\left[ (x-1)^3\right ]^{1}_{0}\\=\displaystyle \frac{s}{3}


\displaystyle Q=\int_{0}^{t}(-x^2+t^2)dx\\=\displaystyle \left[-\frac{1}{3}x^3+t^2x\right ]^{t}_{0}\\=\displaystyle \frac{2}{3}t^3


よって、
\displaystyle \frac{Q}{P}=\frac{2t^3}{s}


となります。


まだ使っていない条件は
「A と B がただ1点を共有するとき」
です。


図1より
A と B が共有点をただ1つもつならそれは
0<x<t の範囲にあり接点となります。


そこで放物線 A, B をそれぞれ y=f(x), y=g(x) とおいて
接点が存在する条件を求めることにします。


f(x)=s(x-1)^2,\  g(x)=-x^2+t^2
f'(x)=2s(x-1),\  g'(x)=-2x


接点をx=uとするとその存在条件は


・関数の値が等しくなること
微分係数が等しくなること


ですから


f(u)=g(u),\ f'(u)=g'(u)


よって

f(u)=g(u)⇔s(u-1)^2=-u^2+t^2・・・①
f'(u)=g'(u)⇔2s(u-1)=-2u・・・②

②より
(s+1)u=s
0<s より s+1>0 だから
\displaystyle u=\frac{s}{s+1}


これを①に代入して
\displaystyle t^2=\frac{s^2}{(s+1)^2}+\frac{s}{(s+1)^2}\\\displaystyle
   =\frac{s(s+1)}{(s+1)^2}\\\displaystyle
   =\frac{s}{(s+1)}・・・③


よって

\displaystyle t^2=\frac{s}{(s+1)},\ 0<s,\  0<t<1・・・(☆)

が接点の存在条件です。


0<t<1より

0<t^2<1
⇔\displaystyle 0<\frac{s}{(s+1)}<1 
⇔0<s<s+1 \ \ (∵S+1>0)
⇔0<s  (S+1>s は任意の実数 s で成立)


これで(☆)をみたすtの存在が確かめられました。


③を t について解くと
0<s, 0<t<1 ですから
\displaystyle t=\sqrt{\frac{s}{s+1}}
となります。


\displaystyle \frac{Q}{P}=\frac{2t^3}{s}

\displaystyle t=\sqrt{\frac{s}{s+1}}
を代入すると


\displaystyle \frac{Q}{P}=\frac{2}{s}\left(\sqrt{\frac{s}{s+1}}\right)^3\\=\displaystyle \frac{2}{s+1}\left(\sqrt{\frac{s}{s+1}}\right)


oops!!!!


s の無理関数が現れました!


これを微分して増減を求める気にはなれませんよね。
というか文系範囲外です。


ということはどこかで方針が誤っているのです。


式を遡ると③を t について解いたがために無理数が現れています。

\displaystyle \frac{Q}{P} は s, t の2変数から成る式です。

\displaystyle \frac{Q}{P} を s のみの式にしたのがマズかったのなら t のみの式にしたらうまくいくのではないでしょうか。


そこで③を s について解いてみます。


③⇔ (1-t^2)s=t^2

0<t<1 より 1-t^2\neq0 だから

\displaystyle s=\frac{t^2}{1-t^2}


s の存在条件は

\displaystyle s>0⇔\frac{t^2}{1-t^2}>0

ですが0<t<1のとき, 1-t^2>0 ですから


\displaystyle \frac{t^2}{1-t^2}>0\\⇔t^2>0


これと 0<t<1 を合わせて考えると結局 s の存在条件は 0<t<1 です。

この s を \displaystyle \frac{Q}{P}=\frac{2t^3}{s} に代入すると


\displaystyle \frac{Q}{P}=2t(1-t^2)


となりtの整関数となりました。

この増減を求めるのは容易です。


h(t)=2t(1-t^2)
として

\displaystyle h'(t)=-2(3t^2-1)\\=-2(\sqrt{3}t+1)(\sqrt{3}t-1)

ですから
0<t<1 のもとで増減表を書いて

t 0 \frac{1}{\sqrt{3}} 1
f'(t) 0
f(t)

増減表よりh(t)は \displaystyle t=\frac{1}{\sqrt{3}} で極大かつ最大となります。


\displaystyle h\left(\frac{1}{\sqrt{3}}\right)=2\left(\frac{1}{\sqrt{3}}\right)\left(1-\frac{1}{3} \right)\\\displaystyle =\frac{4\sqrt{3}}{9}


これが求める最大値です。問題が解けました。


解答の骨格

1. P,\  Q,\  \displaystyle \frac{Q}{P} を求める
2. AとBが接点を持つ条件からs,tの関係式を立式する
3. 2.で求めた s, t の式を s について解き、\displaystyle \frac{Q}{P} を t の関数h(t)とする
4. h(t) を微分して増減表を作り最大値を求める

解答例

放物線 A,\  B は図1のようになるから
P,\  Q


\displaystyle P=\int_{0}^{1}s(x-1)^2dx\\=\displaystyle \frac{s}{3}\left[ (x-1)^3\right ]^{1}_{0}\\=\displaystyle \frac{s}{3}


\displaystyle Q=\int_{0}^{t}(-x^2+t^2)dx\\=\displaystyle \left[-\frac{1}{3}x^3+t^2x\right]^{t}_{0}\\=\displaystyle \frac{2}{3}t^3


よって、
\displaystyle \frac{Q}{P}=\frac{2t^3}{s}・・・①


放物線 A,\  B をそれぞれ y=f(x),\  y=g(x)
とすると,図1より

放物線 A,\  B がただ1つの共有点をもつときそれは接点である
接点を x=u とおくと


f(u)=g(u) かつ f'(u)=g'(u)

f(u)=g(u)\\⇔s(u-1)^2=-u^2+t^2
・・・②


f'(u)=g'(u)\\⇔2s(u-1)=-2u
・・・③


③と 0<s より

\displaystyle u=\frac{s}{s+1}・・・④


④を②に代入して

\displaystyle t^2=\frac{s}{(s+1)}・・・⑤


0<t<1 のもとで⑤を s について解いて

\displaystyle s=\frac{t^2}{1-t^2}・・・⑥


\displaystyle s>0⇔\frac{t^2}{1-t^2}>0・・・⑦


0<t<1 のとき, 1-t^2>0 だから

⑦⇔t^2>0


よって 0<t<1 のとき, s>0 となる s は存在する


⑥の s を①に代入して

\displaystyle \frac{Q}{P}=2t(1-t^2)


h(t)=2t(1-t^2)

とすると

h'(t)=-2(3t^2-1)\\=-2(\sqrt{3}t+1)(\sqrt{3}t-1)



t 0 \frac{1}{\sqrt{3}} 1
f'(t) 0
f(t)

増減表より求める最大値は


\displaystyle h\left(\frac{1}{\sqrt{3}}\right)=\frac{4\sqrt{3}}{9}・・・(答)


まとめポイント

・ 共有点の存在条件としてs,tの関係式


  \displaystyle t^2=\frac{s}{(s+1)}


  を得ます.  


  思考過程にあるようにs,tどちらの文字について解いて \displaystyle \frac{Q}{P} の式に代入するかで扱
  う関数の種類が異なります.

  sのみの式にすると無理関数が現れ,文系範囲では解答不能となります.

  このようなときは方針が誤っているのだと判断してすぐに軌道修正してくださ
  い.


・ ある文字について解いた場合はその文字に関する条件を残りの文字に反映させる
  ことを忘れないでください.

  解答例の⑥以下の流れがそうです.


  これは何をやっているのかというとs>0となるようなsが存在するためのtの条件を求めていることになります.


  tに関する条件にはもう1つ 0<t<1 がありますが,⑦を解いた結果 0<t<1 より狭いtの条件が得られる可能性があるので⑦を解いているのです.

  ⑦の式の形から 0<t<1 は自明でしょうが,念のため計算で確認すると t^2>0 となります.

  t^2>0 は0以外の任意の実数について成立します.


 「0<t<1」 かつ 「tは0以外の任意の実数」
 となりこの共通集合をとれば 0<t<1 となります.

・ 接点の存在条件としては解答例のほかに2次方程式の重解条件として処理する方法が考えられます.

  別解として示しておきます.

別解

\displaystyle \frac{Q}{P} を求めたあとで)


放物線 A,\ B の式を連立して

s(x-1^2)=-x^2+t^2\\⇔(s+1)x^2-2sx+s-t^2=0
・・・②


A,\  B がただ1つの共有点をもつとき,2次方程式②が重解をもつので


②の判別式=0
⇔$s^2-(s+1)(s-t^2)=0\\
⇔st^2-s+t^2=0$
・・・③
(以下③をsについて解くと解答例と同じ)

最後に

・計算主体の問題ですが,その計算が簡単です。
P,\  Q,\  \displaystyle \frac{Q}{P} は難なく求められるでしょう.


・共有点条件は接点方式・重解条件方式いずれをとってもよいです.
計算量の面からみれば重解条件を用いたほうが簡単です。

接点方式は一般の関数にも通用する方式なのですが文系範囲で接点を扱う場合ほとんど多項式の関数なので重解条件でも解けることを失念していました。

以上言い訳でした。


・本問の出来を分けたのは \displaystyle \frac{Q}{P} を s の式にするか t の式にするかでしょう。


t の式にすると典型的な多項式関数になるのですが
s の式にしてしまうと無理関数が現れます。


ここで t の式に軌道修正できたか否かで実力がわかります。


文系問題の良いところ(?)は文系範囲外の数式が現れたら方針の誤りだと判断できるところです。

出題者が軌道修正のチャンスを与えてくれていると言ってもいいかもしれません。


もし理系の人あるいは学校で数Ⅲまで履修する文系の人なら無理関数であろうと微分できてしまうのでそのまま計算に突っ走る可能性があります。

これでも正解は出せるのですが明らかに多項式関数を扱う場合より面倒でミスの可能性が高くなります。


出題者がくれたチャンスを生かして t の式にするようにしましょう。


腕力自慢の方へ~力こそパワー~

「無理関数程度にひるむ俺様じゃねーぜ!!」
というオラオラな文系の人のために \displaystyle \frac{Q}{P}s のみの式にした場合の解答を記しておきます。


\displaystyle \frac{Q}{P}= \frac{2}{s+1}\left(\sqrt{\frac{s}{s+1}}\right)


上式の右辺を g(s) とすると

\displaystyle g(s)=\frac{2\sqrt{s(s+1)}}{(s+1)^2}


\displaystyle g'(s)=\frac{2[\{\{s(s+1)\}^{\frac{1}{2}}\}'(s+1)^2-\{s(s+1)\}^{\frac{1}{2}}\{(s+1)^2\}']}{(s+1)^4}


\displaystyle =\frac{2}{(s+1)^4}[\frac{1}{2}\{\{s(s+1)\}^{-\frac{1}{2}}\}(2s+1)(s+1)^2-\{s(s+1)\}^{\frac{1}{2}}\{2(s+1)\}]


\displaystyle =\frac{2}{(s+1)^4}\cdot\frac{(s+1)}{2}\{s(s+1)\}^{-\frac{1}{2}}\cdot[(2s+1)(s+1)-4\{s(s+1)\}]


\displaystyle =\frac{1}{(s+1)^2}\cdot\{s(s+1)\}^{-\frac{1}{2}}\cdot(-2s+1)


\displaystyle \frac{1}{(s+1)^2}\cdot\{s(s+1)\}^{-\frac{1}{2}}


s\ >0 のとき正の実数となり定符号だから


g'(s) の符号は (-2s+1) と同じ


よって g(s) の増減表は

s 0 \frac{1}{2}
g'(s) 0
g(s)

となるから
g(s) の最大値は
\displaystyle g\left(\frac{1}{2}\right)=\frac{4\sqrt{3}}{9}


計算ポイント

\sqrt{s(s+1)}微分した後に現れる \{s(s+1)\}^{-\frac{1}{2}} の項で微分後の式を括ることです。

このようにすると1のべき乗の項が現れて計算か簡単になります。
\sqrt{x} がらみの微分ではこのことを覚えておくと計算の見通しが立てやすくなります。


また無理関数は \sqrt{x} のままでいるよりもべき乗の形にしたほうが微分における係数や指数部の計算がやりやすくミスが防げます。