2017年 東京大学 数学 理系 第3問を解こう

はじめまして、まると申します。
家庭教師の駆け出しです。
以後、お見知りおきを。

当ブログ最初の一問は大幅易化で一部で話題となった今年の東大数学から。
まずはその中の一問を解いてみましょう。


複素数平面上の原点以外の点zに対し,\displaystyle ω=\frac{1}{z}とする。
(1) α0でない複素数とし,点αと原点\mathrm{O}を結ぶ垂直二等分線をLとする。
zが直線L上を動くとき,点ωの軌跡は円から1点を除いたものになる。
この円の中心と半径を求めよ。

(2) 13乗根のうち,虚部が正であるものをβとする。点βと点β^2を結ぶ線分上を点zが動くときの点ωの軌跡を求め,複素数平面上に図示せよ。

(2017 東京大学 理科 第3問)

( 難易度:標準 目標解答時間:15分)

スポンサーリンク



思考過程

(1) まずは求めるものを確認しましょう。ωの軌跡です。与式からωzの値によって決定されることがわかります。
逆に言えば与式中のωに適当な値を代入してその時の等式を満たすzが垂直二等分線L上に存在すればそのωは求める軌跡上にあるといえます。
具体例で考えてみましょう。

ex)
α=1+iのときを考える
α=1+iのとき、ω=2は求める軌跡上にあるか⇔ω=2を満たすzL上にあるか
\displaystyle ω=\frac{1}{z}より
ω=2のとき\displaystyle z=\frac{1}{2}ですから
\displaystyle z=\frac{1}{2}L上にあればω=2は求める軌跡上にあり、無ければ求める軌跡上に存在しません。

ではどのようにして\displaystyle z=\frac{1}{2}L上に存在することを判定すれば良いのでしょうか。
Lとは0αの垂直二等分線です。
垂直二等分線とは2つの定点からの距離が等しい点の集合のことです。
ここでの2つの定点とは0とαです。
複素数平面上で距離は2点の差の絶対値で表されます。
0とzの距離は|z|(正確には|z-0|ですが原点Oは通例省略されます)
αとzの距離は|z-α| です。
よって|z|=|z-α|…(☆)を満たす点zは2つの定点0とαからの距離が等しい点の集合になります。
つまり(☆)が垂直二等分線Lの方程式となります。

α=1+i,\displaystyle z=\frac{1}{2}を(☆)に代入してみましょう。
(☆)の左辺=\displaystyle \left|\frac{1}{2}\right|
      =\displaystyle \frac{1}{2}

(☆)の左辺=\displaystyle \left|\frac{1}{2}-(1+i)\right|
      =\displaystyle \left|-\frac{1}{2}-i\right|
      =\displaystyle \frac{\sqrt{5}}{2}
となり(☆)が成立しません。
このことはα=1+iのとき\displaystyle z=\frac{1}{2}L上に存在しないことを意味しています。
よって\displaystyle z=\frac{1}{2}によって決定されるω=2は求める軌跡上に存在しません。

一方、α=1+iのときz=-1+2iL上に存在するでしょうか。
α=1+i,z=-1+2iを(☆)に代入しましょう。
(☆)の左辺=|-1+2i|
      =\displaystyle \sqrt{5}

(☆)の右辺=|-1+2i-(1+i)|
      =|-2+i|
      =\displaystyle \sqrt{5}
となり(☆)が成立します。
よってz=-1+2iL上に存在しz=-1+2iによって決定される\displaystyle ω={-1-2i}/{5}求める軌跡上に存在します。

f:id:tarumaru:20170621024608p:plain

ここまでα=1+iのときを例に見てきましたが以上の議論をα=1+iのときに限定せず一般のαに対して行いましょう。

|z|=|z-α|・・・(☆)を満たす点zならばその点zによって決定されるωは求める軌跡上に存在すると言えるのでした。
(☆)はzについての方程式ですから\displaystyle ω=\frac{1}{z}の式をz=...の形にすれば(☆)に代入できます。
\displaystyle ω=\frac{1}{z}より\displaystyle z=\frac{1}{ω}・・・①
①を(☆)に代入して
 \displaystyle |\frac{1}{ω}|=|\frac{1}{ω}-α|
\displaystyle |1|=|1-ωα|
\displaystyle |\frac{1}{α}|=|\frac{1}{α}-ω|
\displaystyle |ω-\frac{1}{α}|=|\frac{1}{α}|・・・②
②を満たすωの集合が求める軌跡です。
②は点\displaystyle \frac{1}{α}ωの距離が常に\displaystyle \frac{1}{α}であることを意味しています。(αは定数であることに気を付けましょう)
ある1点からの距離が等しい点の集合は円です。
すなわち②はωの描く軌跡が\displaystyle \frac{1}{α}を中心とする半径\displaystyle \frac{1}{α}の円となることを示しています。

これで(1)は解けました。(実は上記の中にありがちな間違いがあります。解答例で確認してください)
以上の流れをまとめて解答の骨格を作ります。

解答の骨格

1.ωzについて解く

2.Lの方程式を立式し1.のzを代入する

3.2.で得られた式をωについて整理する

実際に解答を書き始める場合は解答の骨格をしっかり認識してから書くことを強く推奨します。
解答の骨格が固まらない内に解答を作り始め途中で書くべき内容に迷う受験生が非常に多く見受けられます。
その結果大幅なタイムロスが生じています。
入試は制限時間との闘いでもありますからタイムロスを避ける策を講じておく必要があります。

解答例

\displaystyle ω=\frac{1}{z}・・・①
ω=0のとき,①を満たすzは存在しない
よってω\not=0
このとき①より
\displaystyle z=\frac{1}{ω}・・・②
zαとOの垂直二等分線L上にあるから
|z|=|z-α|・・・③
③に②を代入して
 \displaystyle|\frac{1}{ω}|=|\frac{1}{ω}-α|
\displaystyle|ω-\frac{1}{α}|=|\frac{1}{α}|
よって求める円の中心は\displaystyle\frac{1}{α},半径は\displaystyle \frac{1}{|α|}


ありがちな間違いその1

\displaystyle ω=\frac{1}{z}より\displaystyle z=\frac{1}{ω}

ついこのような式変形をしたくなりますがωが0でないことを確認しないままにこのような式変形をしてはいけません。
分母を0とするものは数として定義されないため等式の両辺を0で割るという操作は数学的に意味を成しません。
zは0ではないと問題文にありますがωに関してはそのような記載はありません。
つまりωは0の可能性もあるのでωが0の場合を確認する必要があります。
解答例の記述でわかると思いますが初学者のために詳しく書くと

ω=0のとき
\displaystyle 0=\frac{1}{z}
これを満たすzが存在したとしてそのzは0ではないから両辺にzを掛けることができるが
0=1
となり矛盾
よって\displaystyle 0=\frac{1}{z}を満たすzは存在せずωは0ではない

実際の答案ではここまで詳しく書く必要はありません。
解答例程度の記述で十分です。
しかし必ずω=0の場合を確認してください。
ω=0の場合を確認しない人が非常に多いです。

ありがちな間違いその2

\displaystyle |ω-\frac{1}{α}|=|\frac{1}{α}|
から求める円の中心は\displaystyle \frac{1}{α},半径は\displaystyle \frac{1}{α}

おそらく中心に引きつられて半径を\displaystyle \frac{1}{α}としたものと思われますが重大な間違いです。
半径は大きさであり正の実数値をとります。
複素平面上で大きさを表すのは絶対値です。
\displaystyle \frac{1}{α}複素数であり実数とは限りません。
よって\displaystyle \frac{1}{α}を半径としたのでは複素数の半径(?)や負の実数値となる半径(?)が現れることになります。
\displaystyle \frac{1}{α}\displaystyle \frac{1}{|α|}は外見上些細な違いですが意味する数学的内容が決定的に異なるためこの部分での間違いを0点とされても文句は言えません。


(2)については次回